撤退は再考を

 日本製紙釧路工場の紙・パルプ事業撤退方針は、市民に不安を広げています。紙智子・岩渕友の両参議院議員と調査・懇談にまわりました。石川明美・道7区予定候補と村上和繁・工藤正志の両市議が準備・案内してくださいました。

 昨年で操業100年を迎えた同工場。雇用や地域経済で、釧路市の重要産業としての役割を担ってきました。しかし昨年11月、突然の撤退表明。直接雇用250名・関連雇用250名とも言われ、影響額は380億円を超えるとも報じられています。市内総生産額の約4%と推計され、大きな打撃になるのは間違いありません。

 デジタル化の進展や、コロナ禍による新聞紙需要の減少などはありつつも、より根本的には日本製紙の経営計画があります。同グループは2018年に第6次中期経営計画で「洋紙事業の生産体制の再編成」を掲げ、釧路工場では最新鋭の8号機を停めました。そして今回の撤退方針に、蛯名大也釧路市長は「晴天の霹靂。まずは再考してほしいことと、協議の場を設けてほしいことを要請してきました」と言います。

 釧路市から伝えたのは「バランスシートに乗らない部分」でした。配置転換としても転勤できない人もいる、港や道路も整備してきた、スポーツ・文化・教育などに果たしてきた同社の役割もある、100年で積み上げてきた結びつき-ー「日本製紙とは共存共栄の歴史でした」と蛯名市長。釧路商工会議所の川村修一専務も「クラスメイトがいなくならないでほしいと、子どもたちも署名を集めていました。日本製紙の社長も署名の重みを受け止めると述べました」と紹介してくれました。

 日本製紙は私の生まれ故郷・石巻市にも工場があります。前身の十條製紙の時代は地域にショッピングセンターがあり、食堂だったわが家も関連工場へ弁当を配達していたような記憶があります。3年間ほど釧路市にも住んで、経済的にも社会的にも深い結びつきがあることを私も肌で感じてきただけに、何とか再考されないかと思いながら話をうかがいました。

 その地域の歴史を伝える展示が、鳥取小学校内にあります。同工場は多いときで1300人もの従業員がいたことから、児童数が変わるたび同地域内の小学校は8回も移転した歴史があるほどです。小学校の空き教室を使った「鳥取小学校博物館」には、鳥取県から移住してきた当時の道具や衣装、工場でのロール紙ミニチュア版など、実の多くの展示がされているのです。一本嶋仁志校長先生の案内していただきました。

 昨年11月に発表された当初は、子どもたちにも動揺があったそうです。先生たちも心のケアをと考えていましたが、なにぶん経営判断にかかわることで実際はウンウンと聞きながら「かける言葉も見つかりませんでした」と校長先生。同社といえばアイスホッケーも有名ですが、鳥取小学校から数々の有名選手も輩出しています。選手たちも教えに来てくれたり、冬の校庭には手作りのスケートリンクも登場します。冷える夜に水をまく父母には、同社で働く人もいたはずです。子どもたちの心の不安定さを危惧するとともに、「人が少なくなることで地域の力も弱まることが心配です」との校長先生の話も、重く受け止めました。

 「昔は商店も多くありました」と語るのは、釧路工場OB会会長の藤原厚さん。今は大手量販店が出店してきたなかで、60年もの長きにわたり「餅処甘善」を営んできた広羽征二さんと、そろって店内で話を聞きました。わが家も甘善さんのラーメンや大福のファンで、やさしく素朴な味は、まさに釧路の歴史を伝える味でもあります。「釧路工場には世界に誇る技術もある、更地になるのは勘弁してほしい」(広羽さん)との言葉は、みずからの経営だけを考えてのことでなく、同工場と二人三脚で地域を支えてきた誇りの言葉です。

 「紙は文化のバロメーター」と聞きながら働いてきた、という藤原さん。労働者にも同様の誇りがあります。実際に藤原さんにも相談があるそうで、「家を買っている人や、子どもが入学・受験を控える人もいる。釧路市では違う仕事といっても、そうは見つからない。配置転換も折り合いがつかないのでは」と心配され、藤原さん自身も「地域に少しでも残れるように」と工場長にお願いしたといいます。お話を聞きながら、あらためて100年もの重みを痛感しました。

 釧路市では日本共産党もいっしょに署名を集め、市民からの署名は約8万筆にものぼりました。釧路市の人口が約16万5000人なので、半分近くの市民が応じた計算です。同社は方針を変更する気はないとしていますが、これだけ市内各地で再考を求める声が湧き起こっているのです。大企業としての社会的責任・社会的役割も求められています。昨年の発表から撤退とする今年8月まで期間も短く、せめて期間を延ばしてほしいとの要望も聞きました。紙・岩渕の両議員も、力になれるようにがんばりますと述べました。私も同じ気持ちです。

 企業の経営方針だからと、国として黙っていていいのかも問われます。コロナ禍での打撃は各産業に及んでいて、撤退・規模縮小などは今回のように雇用や地域経済にも大きな影響を与えます。コロナ禍に乗じた悪質な撤退だってありえます。実態をとらえて今後の施策にも反映していかなければとも痛感した調査でした。

 【今日の句】煙突の下で みんなが生きてきた
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畠山和也
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